魅力的だが廃墟のアイン・ジョンス温泉

 特殊な温水で医療の効果があるとローマ帝国中でも有名であったのが古代ハマット・ガデルの温泉で、皮膚病に効く繊細な硫黄の香りをもったとても健康的な温泉である。シリア・アフリカ地溝とヨルダン川とヤルムーフ川の合流点に、とても美しい高級な温泉都市が建設され、ラビ・ユダ・ハナシー、ラビ・アッシーやラビ・ヨナタンなどのミシュナー・タルムード賢者達の多くも、この場所に何度も訪れていた。

 現在の悲しい現実に戻ってみよう。ハマット・ガデルの温泉を楽しみたい人達は、残念ながらコロナの影響で閉鎖しており、残った選択肢としては、国境フェンス沿いにある古いトルコ時代の温泉場、探し出すのが困難でゴミが多く温泉に入る気分にならないかも知れないアイン・ジョンスと呼ばれる場所がある。

 つまりハマット・ガデルの有名な温泉に無料で入りたい人は、殆ど不可能に思われる場所に関係した沢山の都市伝説に立ち向かわなければならない。色々なフェイスブック・グループではこの場所を知っている者達が、前触れもなく大きな音を立てて閉まる黄色いゲート、全身の毛もよだつ治安リスク、蛇、昔の地雷、温泉の中に浮かんだ驚くほどのゴミの山などに関して書いており、もしそれでも勇気を振り絞って温泉に付いたとしても、その汚さに失望して帰宅することになるかもしれない。このミステリーな温泉に関係した色々な障害や問題を乗り越える為に、一般市民の為に水源などの一般公開で活動している女性に同行してもらった。

 未だ閉鎖中のハマット・ガデルの駐車場入り口に朝集合した。ヨルダンとの自然の国境となっているヤルムーフ川が削って出来た急な勾配のワジに沿った道路を降りて行き、対岸の監視所にいるヨルダン兵士が双眼鏡でこちらを監視しているのが見えた。ゴラン高原南部のこの特殊な地域は「三つの国境」と呼ばれており、シリアとの国境にも近い。

 アイン・ジョンスへの道にあるミステリアスな黄色いゲートは、車で国境フェンスに沿って走りながら温泉の近くまで車で行けるようになっている。軍隊が突然このゲートを閉鎖し、車ごと中に閉じ込められたという可哀想な訪問者達の話がネットには出ているが、ガイドさんによると「この黄色いゲートは治安状況に沿って開閉されている。静かな時にはいつも夜17時に兵隊が閉鎖しているが、ハマット・ガデルの駐車場に止めておけば、歩いて5分で温泉に着けるし、ゲートの閉鎖時間に左右されることがない」とのこと。

 草で一杯になっている使われていない大きな駐車場まで辿り着いた。ここら辺には蛇が出るという簡単な注意を受け、美しい竹のトンネルを通って覆い茂った草木に隠れた秘密の小道を進んでいくと、国境フェンスの警備道路に出てきて、ヤルムーフ川の川岸に沿って出来ている電線フェンスが見えてくる。

 景色は美しく空気は香水のようで、温泉の有名なデリケートな香りである。特に目立った障害も無く、大きな蛇が道路を横断していたことくらいだ。ガイドさん曰く「コインヘビだけども毒は無いから大丈夫、ただ短気なヘビだけど」。

 国境フェンスに沿って3分歩いて行くとアイン・ジョンス温泉に到着する。古いコンクリートの建物で、沢山のグラフィティとゴミがある。その近くに沢山の車が駐車していたので、沢山の人で満杯の時間帯であろうと察知し、付近にある古代の温泉都市をまず見学し、人が少なくなってから温泉に戻ることにした。

 ローマ時代の古代温泉都市であるハマット・ガデルに行く途中、ユダヤ人とアラブ人が共同で1944年に建設した医療高級ホテルの廃墟を通っていく。1967年に六日戦争でゴラン高原がイスラエルに占領された後にこのホテルは廃墟となり、草木や動物がこれらの建物を占拠して、インスタ映えする世界週末のようなドラマチックな外観を作り上げた。

 廃墟になっている巨大なキッチンと食堂を通り抜け、この地域全体を覆っている強い硫黄の匂いの源泉、自然に地中から湧き出ている泡立つ温泉の水溜まりや、錆びついたポンプ場へ向かっていく。新しいポンプ場の建物の背後にハマット・ガデルの美しい温泉都市が潜んでいる。

 特別に高級な建設であったことは考古学者でなくても理解できる。大理石で出来た柱廊で囲まれた巨大なプール、巨大なアーチや古代の人達が座った石製の椅子など。イスラエルで最も興味深い考古学遺跡の一つだと思われる。この場所の静寂さがユダヤ最高議会サンヘドリン議長であったラビ・ユダ・ハナシが、学友達と聖書の律法のことを話し合いながら様々なお風呂に入っているのが想像できた。美しい温泉場と大理石の柱の迷路をゆっくりと歩いて行くと、ローマ帝国の繁栄の日々であったタイムトンネルへの中を通っているようだ。

 アイン・ジョンスに戻った。朝に沢山駐車していた車はいなくなり、沢山のゴミが残っているだけだった。ゴミを無視して水着に着替えていると、ガイドさんは着替えずに大きなゴミ袋を取り出して周りの清掃をし始めた。

 ミステリアスなアイン・ジョンスは、コンクリートで出来たトルコ温泉ブールであり、屋根の無い簡単なデザインである。プールは軽い硫黄の匂いが混ざった熱いお湯であった。温水は綺麗で、コンクリートで出来た階段には数人の訪問客が常連であると語ってくれた。

 この温泉に浸るのはとても楽しい経験で、とても熱いお湯なので、ゆっくりと入るのが基本だ。少し油っぽい熱い温水が体を硫黄のお茶かスープのように包んでくれる。熱は我々を柔らかく包んでくれて、身体や筋肉が和らぎ、コロナや困難な日常生活のことは直ぐに忘れてしまい、全ての問題は水蒸気と共に空に消えていく。自然の中で温泉に浸るのを好む人は、アイン・ジョンスの素晴らしい体験にほれ込んでしまうであろう。

 このような場所を一般公開してしまうと、時には過激な改革であり時には破壊的な行為を生んでしまうことがある。ゴミ、暴力や自然への破壊行為を一般市民はもたらす恐れがあり、自然公園に於けるイスラエル人の野蛮な行動を見れば当たり前の結果となる。温泉を訪れていた一人が、今回の記事にこの場所が載ることを残念がり、今までこの場所に関係した怖いうわさがこの場所を隔離させてきたことを語った。

 「アイン・ジョンスの記事が載ったからとて、突然100人以上の人達が訪れることは無いと思う。しかしここに来る人達の多くは清掃に無関心だろうから、せめてここを訪れる人は温泉にではなく、ゴミ箱に缶ビールを捨ててほしい」とも語った。

 ガイドさんはゴミには懸念しておらず、沢山の人達が訪れることによってここへ来る途中の障害がなくなることを願っている。「ゴミを懸念するよりも、訪れる人達が清掃することを学ぶまで教育すればいい。私や他のボランティアが清掃を続けるし、この温泉の水をいつも綺麗にし続ける」と楽観的に語った。

最新記事

すべて表示

設立120周年をお祝いするエルサレムのホテル

イスラエルの観光に関して少し理解している人は、アメリカン・コロニー・ホテルに付いて聞いたことがあるだろう。東西エルサレムの境目にある国際的な香りを持ったホテルで、シェイフ・ジャラフ居住地にある。隠れた庭でもたれた、政治家や諜報部の秘密の会合なども有名な話だ。しかしここ1年半何処でも起きているように、コロナ禍以来この歴史的なホテルは、その歴史に新しい1枚を刻み、半分は悲しく、半分は甘い話である。 こ

同行者も送迎も無し:空港でのコロナ規制が厳格化

今晩零時(7月26日)から、ベングリオン空港での同行者、及び送迎者の入場が禁止となる。ターミナル1と3への入場は、4時間以内のフライトに登場するフライトチケットを提示した者しか許可されず、またはフライトの為に何らかのことを行う為に必要な者だけである。また未成年の同行者、または身体障がい者の同行者、及び商用目的の入場は許可される。 今日は1日で約3万4千人の利用客が空港を通過し、そのうちの1万6千5

明日から16歳以上のイスラエル人は、全員海外出国申請書を提出する必要

保健省は、明日6月29日から16歳以上のイスラエル市民は全員、イスラエルから出発する24時間以内に申請書を記入する必要があることを発表した。この申請書には、個人の詳細と、最高リスクレベルと定義された国々を訪問しないという宣誓書になっている。申請書入力にはここをクリック: 最高リスクレベルの国々のリストは、現在ではアルゼンチン、ブラジル、南アフリカ、インド、メキシコとロシアになっている。これらの国々