最初のお金

 いつから人間は、商品と引き換えにお金を使用し始めたのか?海から遠く離れた場所で発見された貝殻、鉱石場から遠く離れた場所に住む人達が持っていた宝石や貴金属などの考古学の遺物は、数万年から数十万年以上も前から活発な貿易がなされていたことの証拠である。我々人間以前に貿易が行われていたと考えられ、古代の人達も同じようなことをしていたと思われる。しかし歴史上では貿易は硬貨を使用せず、お金という価値観もない中で行われていたと考えられている。当時は物々交換で、貝殻に対して宝石、鹿の肉に対して象の皮などの直接交換であった。

 後世になってから商品の支払いとして商人へ硬貨を使用することとなり、アジア、アフリカやアメリカでは一定の貝殻が使用され、琥珀や貴金属も同様に使用された。貝殻は自然の個体として使用されていたが、貴金属には測量する方法を必要とし、一瓶の油や三匹の羊に相当する銀か金が必要であったかを決める必要があった。これが「シェケル」(ヘブライ語で測量の意味)という初めての基準であり、貴金属の測量値であった。このように旧約聖書でも、ダビデ王がエブス人のオルナンから脱穀機と牛を「金六百シケルをはかって、オルナンにしはらった」(歴代志上21:25)と記されている。

 紀元前1千年に、今日のスペインの地域で既に最初の硬貨が鋳造された。ある一定の大きさの金属ディスクで、その上にシンボルや碑文が彫られ、この硬貨への価値保障をする支配者がいると示した証拠である。それ以前にも鋳造されていない硬貨として利用されており、サイズや形が一定の金属硬貨や違う形で使用されていたものも数多くあった。

 これらの金属は世界中の多くの場所で発見されており、数十個から数百個入っている宝物が時々発見されている。しかしこれらを本当に商人に硬貨として支払っていたのかをどうやって知ることが可能であろうか。オランダ人研究者達の新しい研究によると、ヨーロッパ中央部(主にドイツ、ポーランド、チェコ)で発見された、約4千年前の青銅物体を調べたところ、一部はその利用に適応したものであり、硬貨として最初に必要なこと、「標準化」に対応したものであった。

 研究者達は3種類の青銅物体に集中研究し、馬の蹄に似た曲がった青銅の棒のようで、中央が太く両端が細くなっている「リング」、相似した棒であるが曲がりが少し緩い「リブ」(肋骨)と、武器として利用するには小さすぎて見た目から名付けられた「斧の頭」である。実際には、これらの物体の価値以上の利用方法があったかは明確ではない。これらは中央ヨーロッパの多数の場所で発見されており、リングとリブは主に南部、斧の頭は北部に集中して発見されているが、一か所に全部が見つかっている地域もある。合計2,639個のリング、1,780個のリブと609個の斧の頭を研究員は調査し、殆どが紀元前2千年初期のものであった。

 研究者達はこれらのものを測量し、重量は全て一定ではなかったが、偶然的な重量でもなかったことを発見した。リングとリブの殆どは193gに近かった。重量が相似しているのは、当時の人達が同じ価値を表す同じ重量として理解していたのかどうか。この時代のヨーロッパには、正確な重量を測定できる秤やその他のツールは存在していない。二つの物体が同じ重量かを知るには、両手で二つを持って重さを比較していた。その為に当時の人達が同じ重量の青銅物体をどのように考えていたかを知るために、研究者達は心理物理学に助けを求め、人間がどのように自分の環境にある物理的特徴を認識するかを調べる為の分野である。

 人間は物体の重量や長さ、音の強さやその他の物理学的特性を比べてみる時に、様々な特性の関連性に頼っている。100gと150gの重さの違いを簡単に見分けることは出来るが、同じ50gの違いでも一つは10㎏ともう一つは10.5㎏見分けるにはとても困難である。重要な価値は重量自身の違いではなく、全体重量の何パーセントになっているかである。前述の前者の重量の相違は総重量の50%に当たるので見分けやすい。後者では総重量に対して0.5%になるので、とても見分けるのが困難となる。

 重量の相違、音の強弱やその他の刺激を見分ける我々の能力の法則は、ウェバーの法則(Weber Law)と呼ばれるオリジナルの刺激の変化によって違ってくる。重量の場合には、見分けるためには総重量の約10%に相違量が達する必要がある。もし200gの青銅リングがあるならば、180gか220gの範囲内ならば違いを見分けることは困難になるという事である。

 研究者達は、青銅リングの重量は195.5gくらいとなっており、全体の約70%は同じ重量であるとし、予想によると当時の人間は測量しなくても分かっていたと計算して発見した。リブは小さいものだと81gくらいで、大きいものだと約185.5gであった。大きなリブの殆どはリングとの大きな違いはなかった。斧の頭も二つに分かれ、その中の大きなものはリングより大きくて約290g、小さいものでもリングと同じくらいの重量で、一部はリブより重い180gであった。

 つまりこういうことだ。研究者達は、標準化されたリングとリブは商人に支払われた硬貨の定義に適応していると想定している。研究者達によると、これらの物体を製造した人達は、可能な限り同じサイズの物体を製造しようと試みており、当時の人達にとっては同じ重量の物体で価値のあるものだと考えられていたとしている。これらを製造するために、粘土か石の型に青銅を流し込み、多少は均一のサイズを得ることが出来た。

 リング、リブと斧の頭は一緒に発見されている場所もあり、古代の人がお金を隠す為に使用した場所や金庫のような物の中で、全部がつながっていた形でも発見されている。研究者達は、ある一定の時期にある一定の場所で、リングとリブは同じ重量で同じ価値を持ったものとして使用されていたと想定している。

 全ての研究者達が今回の論文の結論に賛成していない。ドイツのゲッティンゲン大学考古学者二コラ・ヤロンゴは、ニューヨークタイムズのインタビューに対し、今回の研究は「古代のお金への理解に付加価値を与えた」としているが、青銅物体の相似したサイズや形への簡単な説明が出来るとしている。これらは制限された数量の型、又はとても相似した形状の型によって製造されている。また古代の人達が、物体の重量にそれほど重要な意味を理解していたかにも疑問を示している。「簡単に言うと貴金属やその他の物質をお金として利用するために、重量をベースとするシステムの必要性はないということだ」と説明しており、青銅物体を利用していた人達は、今日我々が硬貨を数えるように単純にそれらを数えていたと提案している。研究者達はこの主張へのコメントとして、重量にはとても重要な意味があり、「ある一定の種類の物質に関しては、同じ重量となるように努力がなされていたヒントがある」と反論している。

 これらの意見の相違はあるが、二コラ氏も青銅器時代のヨーロッパである種のお金が使用されていたことには同意しており、「原始時代の社会には実際の商業経済は無かったとしている、最も古く頑固な先史時代考古学のタブーを打ち破ろうとする注目すべき試みである」と今回の研究者達を称賛している。

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