テル・ラキシの古代カナン人の神殿で、約3,200年前の素晴らしい飾りがついた神の杖が発見された。至聖所に置かれた神様の偶像の手にその杖は持たされており、宗教上ではとても強い意味を持っていた。この発見はヘブライ大学考古学課のチームによって行われた。
等身大の偶像が存在していたことは、宗教や古代のテキストや絵画にもよく記されているが、レバントで百以上の神殿が発掘されているにも関わらず、完全な形で見つかった偶像は無い。イラン、メソポタミアやアナトリアなどの古代中東地域で、紀元前4,000年から紀元前1,000年半ばまでに存在していた多くの神殿が発掘された中で、完全な形で発見された神の偶像は、シリアにあるマリ市のイシュタル神殿の偶像一体だけであった。
実物が存在していない理由としては、偶像が消耗品である木材などで作られていたために、時の経過と共に腐ってしまったことである。またこれらの偶像は金、宝石や高価な衣装で飾られていたために、一番最初に略奪されるものであった。
発掘現場の研究、コンテキストや図像分析により、紀元前1,150年ころに使用されていた神殿跡で、完全な形を残した聖なるものをテル・ラキシで発見することができた。
この神殿跡で発掘されたものの一つには、ブロンズが銀で覆われた製品は、高さ112ミリ、幅42ミリのサイズで原型で完全体で発見された。その付近でカナン人が信仰していた戦いの神の偶像が2体発見されており、バアル神であったと想像されている。この杖には64個のドットと各種の飾り模様、それらを囲む円形や直線が描かれている。イギリス委任統治時代に行われたテル・メギドの発掘でも同じようなドットや模様が描かれたものが発見されている。
ラキシやメギドで見つかった遺物に描かれている模様などの意味は現在でも不明である。「ラキシで発見されたものは、2本の足が付いた直線の下半身、斜めに伸びた腕と大きな頭の付いた人間のような偶像である。もしかするとこれらの模様は抽象的な意味ではなく、天文や魔術のシンボルであるのかもしれない。メギドで発見されたものも飾りは抽象的なものではない」とガーフィンケル教授は語った。
ラキシで発見された偶像や杖は、メギドやハゾルで発掘されたものと類似しており、イスラエルの民がこの地へやってくる以前にカナン人が信仰していた神様の偶像であることが研究チームによって予想されている。もしかするとイスラエルの民はカナン人から崇拝の習慣を学び、神のリーダーは奇跡を行うために杖を使用するということを信じていたのかもしれない。
神殿跡は約300平米の大きさで、多くの数珠や武器や金が発見されている。もしかするとこれらも偶像を飾っていたものなのかもしれない。