キブツ・エンゲブと農業保険保険会社は、24歳のドイツ人ボランティアとその両親に対し、4年前に漁船で負傷して左腕が動かなくなった結果、1千2百万シケルの賠償金を支払うこととなった。このようにナザレ地方裁判所で特殊な判決が下された。キブツと保険会社は、原告側の裁判費用と経費である1百万シケルも支払うこととなる。
裁判所では、被告側である特に保険会社の行為を批判し、それも証言者が海外にいる場合に通常用いられるビデオ証言をボランティアと両親に適応させることを裁判所が提案したにも関わらず、コロナ禍の時期にドイツから証言の為に原告側をイスラエルまで来させることを強制したことであった。
また明らかになったのは、事故の原因に関するボランティアの証言の殆どをキブツ・エンゲブと保険会社が容認していた為に、原告側が証言に来る必要も無かったことであった。原告側がイスラエルへ来たことにより、証言前に2週間の隔離を余儀なくされ、イスラエルからドイツへ戻った後にも2週間の隔離をする必要があった。
レナナ裁判官はその判決に於いて、原告側のヤコブ弁護士の主張の殆どを容認し、「被告側はこのケースで時間稼ぎをした。被告側の行動が、両者に対して不必要な複雑さと時間の経過を生んだ。最後のまとめ段階になって被告側が否定していた主張を退かせた。最終的に被告側は、事故の原因に関する原告側の証言を覆すような証拠は何ももたらさなかった」と記している。
ボランティアのドイツ在住ヘレン氏とインタビューした時に、「被告側が私自身や裁判過程を尊重しなかったことに怒りを感じており、どのような私が感じているか、傷ついているかに関しては全く感情を示さなかった。隔離後に証言させる為にわざわざ私をドイツからイスラエルへ来させた。全てが事故当時の恐ろしい痛みを思い起こした。左手は今でも不自由で、全く動かせることも出来ず、重みのように体からぶら下がっているだけでとても失望感が大きい。この腕があるくらいなら切落ちていた方が良かった」と語っている。
ヘレン氏は、高校でホロコーストとその後のドイツとイスラエルとの関係を学んだ後に、ユダヤ人とイスラエル人に触れてみたいという思いでイスラエルのキブツにボランティアとしてやってきた。イスラエルを体験し、市民と知り合い、湖が近くにあるキブツにボランティアすることを望み、キブツ・エンゲブにやってきた。
この事故は、彼女がキブツの漁船で仕事をすることになった後に発生した。漁船にはキブツの漁業専門従業員と、4人のボランティアが乗っていた。ヘレン氏の役割は、網の余ったロープを引っ張り、モーターで作動するクランクに巻き付けることであった。船長がクランクを作動させ、彼女がロープを巻き付け始めた時に、左腕の袖がロープとクランクの間に絡まり、誰も見ていない時に左腕が押しつぶされた。クランクから腕を外すのは複雑で長時間を費やした。裁判所ではヘレン氏の証言はとても信頼性が高く、全く誇張も嘘も無いと決め、被告側はそれに対する反対証言さえも用意しなかった。
事故後にヘレン氏は5回の手術を受けた。精神的に打撃を受け、思い出は苦く、現在の状況に慣れるには困難である。事故の結果、肩の部分の筋に深い亀裂が生じ、脇の血管、筋肉、神経も切れて骨折も生じた。また背骨の首の部分にも骨折が生じている。
今回の賠償金の枠内で、娘の事故によって経済的ダメージと、母親がPTSDに苦しんでいることが認知された。またヘレン氏の父親も、事故による経費への賠償が受けられることとなった。
キブツ・エンゲブのコメントは、「全ての訴訟に於ける裁判面と金銭面は、全て保険会社が処理している。この事故に関して心を痛めている。今までのようにキブツは全世界からのボランティアを受け入れ、キブツを離れた後でも大人になってキブツを訪問し、我々は世界でイスラエル国の肯定的な印象を進めることを目的としている」と伝えた。保険会社とその弁護士ヨッシー氏はコメントを控えた。